展示テーマ1|生命(いのち)のつながり
この2年弱の間、生命について真剣に向き合う機会が増えました。命が失われることや感染への恐怖、他者への不信感など、社会不安の状況下にありますが、どんなに活動が制限されようとも、わたしたちは生き続けています。本展では、こうした生命の不思議さや力強さに向き合うメディア芸術の中から、「食べる」「踊る」「植物」を考察する作品を展示します。特に「植物」に関しては、高知県出身の植物分類学者・牧野富太郎博士の植物図とメディア芸術作品による、「植物を観る、植物を描く」をテーマにした一体的な展示を行います。牧野博士生誕の地である高知だからこそ実現可能となる、特別展示にご期待ください。

Acqua Alta – Crossing the mirror
Adrien M & Claire B
[インタラクティブアート、デジタルアート|フランス]
第24回 アート部門 優秀賞
実際の紙に描かれたドローイングをタブレットやスマートフォンの専用ARアプリを通して見ることで、ストーリーを鑑賞できるポップアップブック。白い紙を折ってつくられた家や黒いインクで表現された背景の上に、ダンサーの動きを撮影して作成されたAR映像が重ねられる。映し出されるのは、一軒の白い家とそこで暮らす黒いシルエットの男女。ある雨の日、彼らの生活は一変する。上昇する水により家はインクの海に沈み、女は足を滑らせて姿を消す。あとには、生きているかのように動き続ける彼女の髪だけが残される。作品名の「アクア・アルタ」はベネチアで見られる高潮現象を意味する。唯一無二な事象でありながら普遍的な自然現象でもある災害をモチーフとし、作品化した。演劇、ダンス、マンガ、アニメーション、そしてアーティスティックなビデオゲームを横断する体験を提供する。

Ether – liquid mirror
Kaito SAKUMA
[インタラクティブアート、サウンドインスタレーション|日本]
第24回 アート部門 新人賞
計測された鑑賞者の心拍のオーディオデータがミラーに送られ、鏡面が振動することによって、心臓音が響く。ゆったりとしたテンポは徐々に加速していき、やがて水音を含むサウンドへと変わる。ミラーと鑑賞者のフィードバックは20分ごとにリセットされ、プログラムは沈静と覚醒をリピートする。普段知覚することの難しい鏡に映る自分自身の「生」を感じさせる同作は、新型コロナウイルス感染症によって劇的に変化する現代社会におけるさまざまな感覚を、改めて対象化する機会を提供するだろう。また、作品全体としてのモチーフは「子宮」、作者の第一子に対する祝福でもあり、未来へと向けられたものである。
特別展示「植物を観る、植物を描く」
メディア芸術作品と高知県出身の植物分類学者・牧野富太郎博士の植物図による、「植物を観る、植物を描く」をテーマにした一体的な展示を行います。

Artificial Botany
fuse*
[オーディオビジュアルインスタレーション|イタリア]
第24回 アート部門 審査委員会推薦作品
機械学習アルゴリズムを用いて、植物画が持つ潜在的な表現力を継続的に探求する。本作品は17〜19世紀の画家による植物画を、GAN(敵対的生成ネットワーク)と呼ばれる機械学習システムに学習させることで、元の図版とほぼ同じ形態的要素を持ちながら、あたかも人間の画家が作成したかのような細部や特徴を持つ新しい人工図版を機械によって再現している。

(高知県立牧野植物園所蔵)
展示協力:高知県立牧野植物園

進化する恋人たちの社会における高速伝記
畒見 達夫/ダニエル・ビシグ
[メディアインスタレーション|日本 / スイス]
第21回 アート部門 優秀賞
人間社会を模した進化生態系シミュレータが自動的に作り出す、高速で展開する人生ドラマを鑑賞する作品。シミュレータ内の仮想空間に存在する数千もの個体は、男性が角ばった形状、女性が丸い形状、子どもは男女それぞれの形状で小さく、そして「もの」が三角形で表現される。シミュレーション内の時間の進行は10日間を1ステップとし、人の一生は約1分半で計算され、誕生、恋愛、離別、死を繰り返す。各個体は、性別に関わらず好みの姿の遺伝子を持つ相手に求愛するが、異性カップルからしか子どもが生まれないため、異性から恋愛対象とされるような見た目に進化する。同性に恋をする個体も存在し、時には「もの」に恋をする個体も現れる。作品には個体が動き回る様子と、数個のサンプル個体の人生の出来事を記述した文章が表示される。同時に、発話合成を使ってそれらを読み上げ、産声、男女の音声による求愛の言葉、そして葬送の鐘の音が重なった効果音とともにスピーカから出力される。無機質でロジカルなシミュレーションによって、私たちが営む人生のサイクルを客観的に見ることができる。

ballet rotoscope
佐藤 雅彦 + ユーフラテス
[映像作品|日本]
第15回 アート部門 審査委員会推薦作品
ロトスコープ(rotoscope)と呼ばれるアニメーションの手法を発展させて作り上げた実験映像。ロトスコープは通常、オブジェクトの輪郭線をなぞってアニメーションを制作する方法が一般的だが、本作品では撮影したバレリーナの動きを正確にトレースし、そこからダンスの軌跡を描いた曲線や、数理的な手法で生成されたアニメーションを抽出し、合成している。実写映像とアニメーションが相互に関係し合い、バレエが本来持っているものとは異なる、新しい美しさを持つ表現を目指した。

らくがきAR
『らくがきAR』制作チーム(代表:宗 佳広)
[アプリケーション|日本]
第24回 エンターテインメント部門 優秀賞
スマートフォンやタブレットで、ノートやホワイトボードに描いたらくがきをスキャンすることによって、端末のバーチャル空間内でそれらが⾃由に動き回るようになるアプリケーション。制作にあたっては、スキャンすると描かれた絵に⾃動でボーンと呼ばれる⾻(動きの連結点)が⼊る「ホネボーン(HoneBorn)」システムを独⾃開発した。同アプリケーションは「絵を描く」というアナログな体験を起点としながらも、ARを組み合わせることで、アナログとデジタルの垣根を乗り越えようとしている。動き出したらくがきには食事を与えたり、触れることができるなどコミュニケーションが取れるようになっており、そのインタラクティブ性はユーザーの経験をさらに豊かなものにするよう意図されている。録画、撮影にも対応し、思い出として残したり、SNSで共有したりといった多様な楽しみ方も可能となっている。

NUIBOT Ver.1-縫い物で作るロボット製作キット-
西野 朋加/長谷川 晶一/郭子 楽/Binod DHAKAL
[プロダクト|日本/中国/ネパール]
第24回 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品
生活に寄り添った、身近なシチュエーションにおけるロボットの普及を目指し開発された、裁縫でやわらかいロボットがつくれる制作キット。任意のぬいぐるみに糸を縫い付けるだけで、いきいきとした動作反応を得ることができる。プログラミングに対する知識が乏しいユーザー向けのモードも実装されており、「かわいい」を自分でつくることができる。

NO SALT RESTAURANT
川嵜 鋼平/中野 友彦/中村 裕美/橋本 俊行/宇田川 和樹/天野 渉
[ガジェット、プロジェクト|日本]
第20回 エンターテインメント部門 優秀賞
『ELECTRO FORK』と『無塩料理のフルコース』を用いたプロジェクト。作者らは食品を経由して舌に電気刺激を与え、「電気味覚」によって食べ物の味をコントロールできる『ELECTRO FORK』を開発。また、この『ELECTRO FORK』で食事をした場合に、より塩味を感じやすい無塩料理のレシピの検証を重ね、『無塩料理のフルコース』も提案している。塩分の摂取過多によって引き起こされる、高血圧症や脳卒中などの患者は、塩味の利いた食事を取ることができない。本作では、無塩の料理でも塩味を感じることができ、病気を気にせず「おいしいもの」を味わえるため、「患者たちの健康」と「塩味の利いたおいしい食事」を両立させている。このプロジェクトを通し、世界中の塩分問題を解決し、健康的な食文化、食生活に変えていくことを目指している。

ほったまるびより
吉開 菜央
[映画作品|日本]
第19回 エンターテインメント部門 新人賞
「おどりとはなにか」をテーマに、言語表現を極限まで削り「女の子のからだ」とその「動きから生まれる音」で表現された映像作品。小さな木造平屋一軒家には、人間であるさと子(歌手)のほかに、4人の踊り子が住みついている。心地の良い日々を過ごす踊り子たちだったが、ある日、家のなかにもうひとり少女がいたことを発見する。タイトルにある「ほったまる」とは「ほうっておくとたまるもの」の略語であり、髪の毛や爪、足の裏の皮など身体から出る落としもの、あるいは日々の生活で蓄積されるさまざまなにおいを指す造語。ダンサーでもある作者が、腹の底から湧き上がってくる得体のしれない感情・感覚をからだでつづった「おどる映画」である。

Kintsugi
APOTROPIA (Antonella MIGNONE / Cristiano PANEPUCCIA)
[映像作品|イタリア]
第18回 エンターテインメント部門 優秀賞
本作は作家の自伝的な物語に基づいて制作された映像作品である。作者のミニョーネとパネプッチャは、2003年に人生を大きく変えるほどの交通事故に遭った。作中で、ミニョーネは長年使用してきた松葉杖を用いて情動的なダンスを繰り広げる。タイトルの由来となった「金継(きんつ)ぎ」とは、壊れた陶器の継ぎ目を金で覆い修繕する日本の技法だ。破損した物を修復し、その継ぎ目に新たな趣を見出すこの技法は、物質の尊さや美しさはそこに積み重ねられた時間に宿るという価値観に根差したものといえる。作中で金継ぎは、肉体的・精神的な回復のプロセスの詩的なメタファーとして引用されている。彼女の涙が「金色の樹脂」になって自らの傷を癒し、トラウマを受け入れて変わることで、新しい可能性が開かれていく―。彼らは冒頭のシーンをミニョーネ川の上流で、ラストのシーンを河口付近のひまわり畑で撮影している。金継ぎの技法と、作家自身のリアルな個人史とを重ね合わせ、一人の女性が再生へと向かうさまが描かれる。

ごん
八代 健志
[短編アニメーション|日本]
第23回 アニメーション部門 優秀賞
新実南吉による児童文学『ごんぎつね』を原作とするストップモーション・アニメーション。小ぎつねのごんは、村の青年・兵十が獲ったウナギを川に逃すといういたずらをする。しばらくして、兵十の母親の葬列を見たごんは、兵十が病気の母親のためにウナギを獲っていたと悟り、償いとして、栗や松茸などをこっそりと兵十の家に届けるようになる。ある日、栗を届けに来たごんの気配に気づいた兵十は、いたずらに来たのだと思い、その身を撃ってしまう。動物と人間という異種の交流を通して、本来相容れないもの同士の葛藤の構図をあぶり出した。人形の頭部は思い通りにならない素材と格闘した痕跡を感じられる木彫り、川に流れるのは実際の水、民家や小道具は実物と同じ構造で再現するなど、リアリティにこだわり細部までつくり込んだ。日本の自然や季節を丁寧に隙なく感じさせる画面が美しい。
※『ごん』の人形や制作資料、メイキング映像を展示します。
※本作品は「特集2|ストップモーション・アニメーションの世界」としてご紹介します。

ハルモニア feat. Makoto
大谷 たらふ
[短編アニメーション|日本]
第21回 アニメーション部門 優秀賞
ダンスミュージックやゲーム音楽の影響を受けながら、音楽活動を続けてきたyuichi NAGAOがリリースした楽曲のミュージックビデオ作品。映像を制作した大谷たらふは、波の音から始まる曲を聴いた時に感じた幻想と現実の間で揺らぐような気分から、少女と布団のダンスというユニークなモチーフを発想したという。本来CGを用いて行うエフェクトも、あえて1カットずつ手で描かれたアニメーションには、色鉛筆や水彩絵具のような温もりのあるアナログのタッチが活かされている。「幻想の世界での休息」というコンセプトによって作られた映像には音の波形を思わせる曲線が次々と現れ、気泡のように生まれては消えるカラフルなイメージと、躍動感あふれる少女の滑らかな動きによって、見る者を最後まで釘づけにする。大谷たらふはテレビ、プロモーションビデオ、CMや展示用映像の制作者として着実にキャリアを重ねてきた。その確かな技術が随所に感じられる作品となっている。

サティの「パラード」
山村 浩二
[短編アニメーション|日本]
第20回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品
エリック・サティ作曲のバレエ『パラード』(1917)を、超現実的バレエ映像として手描きのアニメーションで再現。ウィレム・ブロイカー楽団の演奏に合わせ、オリジナルのバレエに登場する人物のほか、サティ本人、パブロ・ピカソ、ジャン・コクトーらが踊りだす。サティのテキストや彼と交流の深かった美術家の作品からの引用も散りばめられている。

WONDER
水江 未来
[短編アニメーション|日本]
第17回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品
一日が始まり、一日が終わる。命が生まれ、やがて死ぬ。すべてのものには始まりがあり、等しく終わりが来る。小さな存在の生と死の繰り返しが、この世界の呼吸になっている。命は不思議で、奇跡的で、驚きで、生きることは、「ワンダー」に満ちている─。8,760枚に及ぶ手描きアニメーションにより、目いっぱいの幸せを表現した作品。

ゴールデンカムイ
野⽥ サトル
[マンガ|日本]
第24回 マンガ部門 ソーシャル・インパクト賞
明治末期、アイヌ人が隠したという金塊をめぐり、北海道、樺太、ロシアで、さまざまな男たちが暗躍するサバイバルバトル。日露戦争の死線を潜り抜けた「不死身の杉元」の異名を持つ退役軍人・杉元は、幼馴染の目を治療するために金塊を探す過程でアイヌの少女アシㇼパと出会う。彼女の父こそ金塊の在処を知る人物であり、謎を解き金塊を探す2人の旅が始まる。同時に鶴見中尉率いる第七師団や、戊辰戦争で死んだはずの土方歳三らも金塊を狙い動き出していた。著者の曽祖父が屯田兵として日露戦争に出兵し、203高地で戦ったという話から着想されたという。歴史冒険譚にとどまらず、雄大な北の地の自然やそこでの処世術から、アイヌの文化や風習、各地の郷土料理などが、杉元とアシㇼパの心の通い合いとともに細やかに描かれ、物語に厚みをもたらしている。登場人物は個性的に造形され、テンポのよいギャグとともにエンターテインメント性も高い。
※本作品は「特集1|「食」を通じて考えるマンガ表現の世界」としてご紹介します。
展示テーマ2|空間(リアル/バーチャル)とつながり
新たな日常におけるさまざまな制限を乗り越えるために、数多くのバーチャル展覧会やバーチャルライブが開催されてきました。単なるリアルの代替ではなく、バーチャルだからこそできること、あるいはリアルとバーチャルが重なることで可能となるということが、作品においても展覧会においてもあると思います。本テーマではリアル/バーチャルでしか生み出せない作品を、リアル/バーチャルでしか体験できない形で紹介します。

10番目の感傷(点・線・面)
クワクボ リョウタ
[インタラクティブアート|日本]
第14回 アート部門 優秀賞
© 2010 Ryota Kuwakubo
光源が備えられた鉄道模型が、床に並べられた日用品の間をゆっくりと移動しながらその影を映しだす。部屋の壁や床、天井に映し出されたモノの影は、電車から見ている風景のように移り変わりながら観者を包み込む。没入・鳥瞰、既視感・未視感といった、相反する体験を交互に繰り返す映像。鑑賞者は知覚を研ぎ澄まし、その体験を語り合うだろう。
通常版(リアル版)と合わせて、VR版(バーチャル版)を世界初公開します。
※VR版は1月15日(土)より展示します。

劇団ノーミーツ
ノーミーツ(代表:広屋 佑規)
[パフォーマンス|日本]
第24回 エンターテインメント部門 優秀賞
劇団ノーミーツは、稽古から上演まで「⼀度も会わずに」フルリモートで演劇を制作するオンライン劇団。「NO密で濃密なひとときを」をテーマに、新型コロナウイルス感染症の流行を受け2020年4月7日に出された緊急事態宣言の2日後に結成。メンバーは20代の映画・演劇・イベント・広告・エンジニアリング等に関わるクリエイターを中心に構成され、発⾜当初にZoomを活⽤した140秒の短編演劇をTwitter上に複数投稿すると、再生数は計3,000万回を超えた。5⽉以降、生配信・有料の長編公演を上演し、延べ1万人以上の視聴者を獲得。一度も会わずに演劇をつくり上げる新しい演劇表現を実践し、苦しい状況に置かれるエンターテインメント業界で新しい活動領域を切り開いた。第2回公演以降、遠隔でのカメラワークや照明演出、観客による選択によって物語が変化する演劇に挑戦するなど、オンライン表現の可能性も追求し続けている。
2021年10月20日、「劇団ノーミーツ」は、名前を改めストーリーレーベル「ノーミーツ」としての活動をスタートした。

Canaria
油原 和記
[ミュージックビデオ、VRアニメーション|日本]
第24回 エンターテインメント部門 新人賞
東京藝術⼤学⼤学院映像科アニメーション専攻に在籍する作者による360°⼿描きVRアニメーションで、実験精神とポップさを同居させるトクマルシューゴの同名の楽曲のミュージックビデオでもある。制作に半年以上をかけ、1羽のカナリアと世界との出会いをテーマに、360°すべてをカラフルかつ綿密に手描きした。VRゴーグル、全天球スクリーン、パソコン、スマートフォンでの再⽣に対応しており、映像的な演出がありながらもVRならではの自由さが与えられた仮想空間内で、鑑賞者は壮大な世界観への没入を促されていく。ミュージックビデオを鑑賞から体験へと再定義しようとする作品。

Flight Fit VR
森⾕ 安寿
[アプリケーション、VRゲーム|日本]
第24回 エンターテインメント部門 U-18賞
仮想的な景⾊と心地よい⾳楽のなかで、⾃宅で⼿軽に⾝体を鍛えられるVRアプリケーション。作者はテクノロジーが発達し、食事や買い物、仕事などあらゆる行為に外出する必要性が少なくなっていく現代において、私たちの筋肉量や運動量が低下していることを指摘する。本作はそのような問題を解決するために制作されており、ドラゴンに乗りながら脚の筋肉を鍛えたり、海の上で体幹を養ったりと、風景やゲームの要素を楽しみながらエクササイズをすることができる。現行のフィットネス系ゲームとは異なる、単身者や⾼齢者も楽しめるコンテンツとして開発され、座りながらプレイできるなどの手軽さも本作の特徴であるといえるだろう。